日本で「資産運用立国」が掲げられ、新NISAやiDeCoを通じて“貯蓄から投資へ”が加速するなか、個人投資家にとって最も重要なのは「どれだけ増やすか」以上に、「どのようにリスクをコントロールするか」です。
このページでは、資産運用のリスク管理の考え方と、安全性の高い投資法を組み合わせた具体的な実践ステップを、これから投資を本格化させたい方・すでに運用している方の双方に役立つ形で解説します。
資産運用の「リスク」とは何かを正しく理解する
投資初心者だけでなく、経験者でも誤解しがちなのが「リスク」の意味です。
リスク=「危険」ではなく「ブレの大きさ」
金融の世界でいうリスクは、価格の振れ幅(ボラティリティ)を指します。
株式や暗号資産は値動きが大きくリスクが高い一方、国債や預金は値動きが小さくリスクが低い資産と位置づけられます。
- 値動きが大きい=短期間で大きく増える可能性もあれば、大きく減る可能性もある
- 値動きが小さい=急騰は期待しにくいが、急落もしにくい
各運用会社や金融機関のレポートでも、「期待リターン」と「リスク(標準偏差)」をセットで評価することが重要とされています。
リスク管理のゴールは「不安なく続けられること」
リスク管理の目的は、損失をゼロにすることではなく、「想定外の大損」を避けて運用を継続できる状態を作ることです。
長期にわたり資産を増やせるかどうかは、リターンの高さ以上に、「続けられる設計かどうか」に左右されます。
まず押さえたい3つの軸:リスク許容度・投資期間・目的
安全性の高い投資法を考える前に、ご自身の前提条件を整理する必要があります。
1. リスク許容度:どれくらいの含み損に耐えられるか
リスク許容度は、以下の3つで決まります。
- 収入・資産・家計の安定度(年収、貯蓄額、家族構成など)
- 投資経験と知識
- 精神的な耐性(含み損を見たときのストレスの度合い)
例えば、退職間近の世代や生活防衛資金ギリギリの家計は、大きな評価損を抱えるリスクを抑える運用が求められます。
2. 投資期間:いつ使うお金か
- 5年以内に使う予定があるお金 → 元本割れリスクの低い運用が基本
- 10年以上使わないお金 → ある程度の値動きを受け入れてリターンを狙う余地あり
長期になるほど、価格変動リスクを平均化できる「時間分散(積立投資)」の効果が期待できます。
3. 目的:何のための資産運用か
- 老後資金
- 教育資金
- 住居購入
- 早期リタイア(FIRE) など
目的ごとに「いつ・いくら必要か」が変わるため、目的別にリスク水準を分けて運用することが安全性向上に直結します。
資産運用で向き合うべき主なリスクの種類
リスク管理というと価格変動だけに注目しがちですが、実際にはさまざまなリスクが絡み合います。
市場リスク(価格変動リスク)
株式・債券・REITなど、市場価格が上下することによる損失リスクです。
近年は、株式と債券が同時に下落する局面もあり、従来の「60/40(株6:債券4)」だけに依存した分散の限界が指摘されています。
金利リスク
金利が上昇すると、既発行の債券価格が下落しやすくなります。
逆に、金利低下局面では高値付け債券が相対的に有利になるなど、金利動向は安全性の高い資産にも影響します。
信用リスク(デフォルトリスク)
国・企業・金融機関などが、元本や利息を支払えなくなるリスクです。
とくにハイイールド債(低格付け社債)は、2025年後半以降デフォルト率の上昇が指摘されており、慎重な見極めが必要とされています。
流動性リスク
売りたいときに売れない、売れるとしても大きく値引きしないと売れないリスクです。
プライベート資産や一部のオルタナティブ投資は、このリスクが相対的に高くなりやすいとされています。
為替リスク
外貨建て資産に投資する場合、為替レートの変動によって円ベース価値が変動します。
為替ヘッジの有無やコストも、リスクとリターンのバランスに大きく影響します。
リスク管理の基本戦略:長期・積立・分散
日本の金融庁や多くの運用機関が共通して強調しているのが、「長期・積立・分散」という基本戦略です。
長期:時間を味方につける
- 短期的な価格変動は読めないが、長期になるほどリターンが平均化しやすい
- 複利効果が働き、長期ほどリターンへの影響が大きくなる
NISAの制度設計も、長期投資を前提に非課税メリットを最大化できるよう考えられています。
積立:時間分散で高値掴みリスクを和らげる
毎月一定額をコツコツ投資することで、高いときには少し、安いときには多く買う「ドルコスト平均法」が自動的に働きます。
短期の天井や底を完璧に読むことは不可能なため、積立による機械的な買付は心理的なブレを抑えるうえでも有効です。
分散:資産クラス・地域・通貨を広げる
- 株式だけでなく、債券・金・コモディティ・REITなど、資産クラスを分散する
- 日本だけでなく、米国・欧州・新興国など地域を分散する
- 円だけでなく、ドルや他通貨への分散も検討する
2022年以降、株と債券が同時に下落する局面を経験したことで、分散投資を株式と債券の相関にだけ頼ることのリスクが改めて認識されています。
安全性の高い投資法:元本とメンタルを守る選択肢
ここからは、リスク管理を重視する個人投資家向けの「比較的安全性の高い投資手法・商品」を整理します。
絶対に損をしないという意味ではなく、リスクを抑えながら資産形成を狙う方法として理解してください。
1. 高格付け債券・債券ファンドの活用
2025年以降、金利低下と債券利回りの魅力から、株式中心から債券へのシフトが世界的に進んでいます。
- 投資対象:国債、投資適格社債など
- 特徴:株式より値動きが小さく、利息収入(インカム)が期待できる
- 注意点:金利上昇局面では価格が下落しやすい、信用力の低い発行体は要注意
運用会社のレポートでも、高格付け債券は2026年前後の環境下で「守り」と「インカム」を両立しやすい資産として位置づけられています。
2. 債券型・バランス型の投資信託(特に新NISA対応)
金融庁や有識者会議では、新NISAの「つみたて投資枠」にリスクを抑えた債券型ファンドの追加が議論されており、退職世代やリスク許容度の低い層が利用しやすい環境整備が進められています。
- 債券比率が高いバランスファンド → 値動きを抑えつつ、株式の成長も一部取り込む
- インデックス型 → コストが低く、長期運用向き
- アクティブ型 → 下落局面での守りや資産配分調整で差別化を図る商品も登場
「投資経験が浅い」「退職金の一部を運用したい」といったニーズに対し、低リスク商品の選択肢が広がりつつあります。
3. 定期預金・個人向け国債などの元本保証・元本確保型商品
資産運用といっても、すべてをリスク資産に投じる必要はありません。
- 銀行預金・定期預金
- 個人向け国債(変動金利型・固定金利型)
- 保険会社の一部の元本確保型商品 など
これらはリターンが限定的である一方、生活防衛資金や数年以内に使う予定があるお金の置き場所として非常に重要な役割を果たします。
4. インカム重視の投資(配当株・REIT・インカムファンド)
資産を増やすだけでなく、安定したキャッシュフロー(インカム)を重視する運用も、安全性を高める有力なアプローチです。
- 高配当株・インカムETF
- 不動産投資信託(J-REIT・海外REIT)
- インカム重視のバランス型ファンド
もちろん価格変動リスクはありますが、定期的な分配や配当が心理的なクッションとなり、長期保有を支えやすくなります。
5. 金・コモディティ・オルタナティブによるリスク分散
金や一部のコモディティは、インフレヘッジや地政学リスクへの備えとして注目が高まっています。
- 金(現物・ETF)
- 分散型コモディティファンド
- 一部のヘッジファンド戦略(マクロ戦略・リスクリパリティなど)
これらは値動きも大きいため、「安全資産」というよりは、株式・債券と動きが異なる“分散のためのピース”として、ポートフォリオの一部に組み込むのが現実的です。
ポートフォリオ設計:安全性と成長性のバランスを取る
具体的な資産配分は人それぞれですが、ここでは考え方のフレームを紹介します。
ステップ1:生活防衛資金とリスク資産の上限を決める
- 生活防衛資金:生活費の半年〜2年分を、預金などで確保
- リスク資産:それ以外の一部を投資に回す(すべてを投資に回さない)
これにより、投資部分が一時的に半分になっても生活が破綻しない状態を作ります。
ステップ2:年代・目的別にリスク水準を変える
例としての考え方(あくまでイメージ):
- 20〜30代:
- 株式・成長資産の比率高め(60〜80%)
- 債券・預金でクッションを確保
- 40〜50代:
- 教育費や住宅ローンを考慮しつつ、株式と債券をバランス
- ゴールに近い資金は徐々にリスクを落とす
- 60代以降:
- 債券・預金・インカム重視ファンドの比率を引き上げ
- 大きな価格変動を避けながら、インフレにも一定対応
2026年以降の市場見通しレポートでも、「保守的な運用態度」と「クレジットリスクへの注意」がキーワードとして挙げられており、年代を問わずリスク管理の重要性は高まっています。
ステップ3:インデックス×アクティブを適度に組み合わせる
- コア(中核):低コストインデックスファンドで、世界株式・世界債券に幅広く投資
- サテライト(補完):テーマ型・アクティブ・オルタナティブなどで、リターン上乗せを狙う部分
近年は、アクティブETFやアクティブファンドの役割も見直されており、リスク管理と成長機会のバランスを取る手段として活用が進んでいます。
相場環境が大きく変わる今こそ意識したいポイント
2020年代半ば以降、市場環境は大きく変化しています。
- 株式市場は一部銘柄への集中と高バリュエーションが意識されている
- 株式と債券の相関構造が変化し、同時下落リスクも顕在化
- インフレや地政学リスクの高まりから、実物資産や金への関心が増加
こうした環境下で、リスク管理の観点から特に重要なポイントは以下の通りです。
集中リスクを避ける
- 特定の銘柄・テーマ・国・通貨に過度に偏らない
- 「話題だから」「周りが買っているから」といった理由だけで集中投資しない
Risk.netなどの調査でも、「少数の二者択一的なエクスポージャーに集中する傾向」が2026年の投資リスクとして指摘されています。
流動性とクレジットリスクを常にチェック
- 流動性の低い商品は、ポートフォリオ全体の一部にとどめる
- クレジットリスクの高い債券・高利回り商品は「なぜ高いのか」を確認する
大手運用機関の見通しでも、プライベート市場や低格付けクレジットへの慎重な姿勢が繰り返し強調されています。
マクロ環境の変化には「構え」で対応する
- 金利・インフレ・為替などのマクロ要因は読めない部分も大きい
- 予測に賭けるのではなく、「どの局面でも致命傷を負わない構造」を最優先する
たとえば、金利低下局面に備えて高格付け債券を一定比率保有する、インフレリスクに備えて一部を実物資産に振り向けるなど、事前の設計でできることは少なくありません。
安全性と成長性を両立させるための具体的アクション
ここまでの内容を踏まえて、今日からできる実践ステップを整理します。
1. 家計の「守り」を固める
- 生活防衛資金(6〜24か月分の生活費)を預金などで確保
- 高金利ローン(リボ払い・カードローン等)があれば優先的に返済
これだけで、投資部分で多少の含み損が出ても、生活への影響を最小限に抑えられます。
2. 目的別に口座・商品を分ける
- 老後資金 → 新NISAの成長投資枠・つみたて投資枠を活用した長期運用
- 教育資金 → 投資期間に応じて、徐々に債券・預金比率を高める
- 近い将来の大きな支出 → 元本割れリスクの低い商品を中心に
目的ごとに「いつ・いくら必要か」を明確にし、それぞれにふさわしいリスク水準を設定することが重要です。
3. 投資方針を文章で決めておく(マイルールを作る)
- 資産配分(株式○%、債券○%、預金○%など)
- 売買ルール(リバランスの基準、損切り・利益確定の条件など)
- 投資しないもの(理解できない商品、レバレッジの強い商品等)
事前にルールを書き出しておくことで、相場が荒れたときの感情的な判断を抑え、ブレない投資行動がとりやすくなります。
4. 定期的なリバランスで「攻めすぎ」「守りすぎ」を防ぐ
- 年に1回〜数回、当初決めた資産配分に戻す
- 上がりすぎた資産を一部売り、下がった資産に戻す
これにより、自然と「安く買って高く売る」行動が組み込まれ、集中リスクも抑えられます。
これからの時代に求められる「攻めない強さ」
金利・インフレ・地政学リスク、そしてテクノロジーの急速な進展など、2020年代後半に向けた投資環境は不確実性が高まっています。
その一方で、日本では新NISAを中心に「資産運用立国」への取り組みが進み、個人の資産形成を後押しする制度・商品も着実に整いつつあります。
このような環境だからこそ、「一発逆転」を狙う攻めの投資ではなく、ブレないルールに基づいた“攻めない強さ”が、長期的な資産形成の成否を分ける鍵になります。
- 自分のリスク許容度を正しく理解する
- 長期・積立・分散をベースに、安全性の高い資産を組み合わせる
- 生活防衛資金と目的別の運用をきちんと分ける
- マクロ環境が変わっても、致命傷を避けるポートフォリオ構造を維持する
こうした一つひとつの積み重ねが、「増やす」だけでなく「守りながら増やす」資産運用につながります。
資産運用に関する基礎知識や、時代の変化に合わせた具体的な運用アイデアをさらに深めたい方は、信頼できる専門家や金融機関の情報とあわせて、国内向けに資産形成・お金の考え方を発信している専門メディアも継続的にチェックし、自分なりの判断軸を育てていくことをおすすめします。
