2026年現在、AI技術の急速な進化が資産運用業界に大きな変革をもたらしています。単なる業務効率化にとどまらず、ポートフォリオ構築やクライアント対応の核心部分にまで深く浸透しつつあるAIの動向について、最新のデータと業界レポートをもとに解説します。
資産運用業界におけるAI活用の現状
Deloitteが発表した2026年投資管理業界展望によると、資産運用企業は実験段階から本格的な企業規模でのAI導入へと移行しています。また、Fidelityの2026年ウェルスマネジメントトレンド調査では、ウェルスマネジメント企業の3分の2以上が生成AI(GenAI)を活用しており、その半数が試験段階、残りの半数が本格運用段階に入っています。
具体的な効果として、クライアントコミュニケーションのドラフト作成やマーケティングコンテンツ生成、調査業務などで効率化が進んでおり、業務時間の削減が実現しています。
Morgan Stanleyの先進的な活用事例
Morgan Stanleyでは、ファイナンシャルアドバイザーの98%がAIツールを採用し、顧客ニーズに合わせた内部資料の自動検索や対話の要点記録などを実現しています。これにより、運用効率が大幅に向上し、アドバイザーは戦略的な洞察に時間を割けるようになっています。
プライベートエクイティ分野でのAI導入
プライベートエクイティ企業では、64%がAIをデューデリジェンス(投資前調査)プロセスに導入しています。これにより、コスト削減と市場成果の向上を実現し、投資候補企業の特定や初期関係構築を支援しています。AIのパターン認識能力と人間の判断を組み合わせることで、優良企業の特性をより精密にモデル化することが可能になっています。
トークン化技術との連携
2025年7月に米国で成立したGENIUS Actにより、ステーブルコイン(価格安定型暗号資産)に関する規制の枠組みが整備されました。この法律の成立後、複数の米国投資運用会社がトークン化されたマネーマーケットファンドを創設しています。
オーストラリア中央銀行も、プライベートエクイティやカーボンクレジットを対象としたトークン化決済の実証実験を行っており、2026年第1四半期に結果を発表する予定です。これらの動きにより、従来流動性が低かった私募資産の取引がより容易になり、新たな投資機会が生まれつつあります。
AI人材への需要急増と組織変革
AI導入の成功は、適切な人材戦略にかかっています。Deloitteの調査によると、投資管理企業の求人広告におけるAI関連スキルへの言及が、2022年の0.7%から2025年上半期には2.4%へと急増しました。生成AIや大規模言語モデル(LLM)、プロンプトエンジニアリングなどの専門スキルへの需要が特に高まっています。
興味深いことに、米国企業ではAI専門人材を採用する際、リベラルアーツ(人文科学)専攻者のクリティカルシンキング(批判的思考力)と技術スキルを融合させる取り組みが進んでいます。Deloitteの調査では、66%のC Suite幹部がAIを生産性向上に活用しており、データ処理業務から戦略的洞察へのシフトを促進しています。
Fidelityの調査でも、AI導入に熟達した企業は従業員の40%以上にAIツールへのアクセスを提供しており、これが成功率の向上につながっていることが明らかになっています。
AI投資の巨大市場と2026年の資本支出動向
AIインフラへの投資額は巨額に上っています。Goldman Sachsの調査によると、主要なクラウドプラットフォーム事業者(ハイパースケーラー)の2026年資本支出は5270億ドルに達する見込みで、当初の予想4650億ドルから大幅に上方修正されています。
この投資規模は、1990年代後半の通信インフラ投資ブーム(GDP比1.5%)に匹敵するものです。複数のアナリストは、実際の支出額が最大6000億ドルを超える可能性も指摘しています。
AI投資の内訳と恩恵を受ける企業
これらの巨額投資は、以下の分野に分散されています:
- AIインフラ(半導体、データセンター、クラウド)
- ソフトウェアとサービス
- 生産性向上を実現する企業向けツール
Morgan Stanleyの2026年投資展望でも、AI技術の拡散が主要な投資テーマとして継続すると予測されています。特に、データベースや開発ツールを提供するAIプラットフォーム企業や、労働コスト比率が高くAI自動化の恩恵を受けやすい企業が注目されています。
規制とガバナンスの課題
AI導入の拡大とともに、規制とガバナンスの重要性が増しています。米国証券取引委員会(SEC)は、AI関連の不正行為に対する執行を優先事項としています。
Deloitteの調査では、26%の企業が自律型AIエージェント(人間の介入なしに業務を実行するAI)の開発を推進していますが、適切なAIガバナンス体制の構築が急務となっています。
推奨されるガバナンスフレームワーク
効果的なAIガバナンスには、以下の要素が不可欠です:
- モデルインベントリ(使用中のAIモデルの一覧管理)
- リスク評価と管理
- データ系譜の追跡
- ベンダー審査プロセス
- 人間介入の基準設定
- 監査証跡の確保
Goldman Sachsは、主要クラウド事業者の戦略の違い(例:NVIDIAのトレーニング重視 vs. Microsoft/Amazonのインフラ優先)が市場のボラティリティを高める可能性があるとし、投資の多様化を推奨しています。
エージェント型AIと資産運用の未来
2026年以降、エージェント型AI(自律的に業務を実行するAI)が資産運用の主流になると予測されています。Deloitteの事例研究では、エージェント型AIが運用データとクライアントデータを活用し、以下のような提案を自動的に行うことが示されています:
- 顧客の行動パターンに基づくセグメンテーション
- ポートフォリオの最適化(配当利回りの向上、分散投資、リスク調整後リターンの改善)
- コンプライアンス文書の自動確認
- 担当者へのアラート送信
これにより、組織横断的な効率性が飛躍的に向上することが期待されています。
物理AIとロボティクスの統合
Goldman Sachsは、センサー技術、エッジコンピューティング、適応型アルゴリズムの進化により、自動運転、工場自動化、ヒューマノイドロボット(物流・ヘルスケア分野)が推進されると予測しています。資産運用の観点では、これらの技術を対象としたトークン化された私募資産への投資機会が拡大すると見られています。
投資家が今取るべきアクション
AI時代の資産運用で成功するには、以下のようなアプローチが推奨されます:
1. AI活用に熟達したファンドの選定
Deloitteの展望が示すように、AIを企業規模で展開できる運用会社が競争優位性を獲得しつつあります。個人投資家や機関投資家は、AI技術の活用度が高いファンドを選定することが重要です。
2. トークン化資産への投資検討
GENIUS Act成立により、トークン化された金融商品への投資環境が整いつつあります。従来アクセスが困難だった私募資産への投資機会が拡大しています。
3. AIインフラ関連株のポートフォリオへの組み込み
半導体、データセンター、クラウドサービスなど、AI基盤を支える企業への投資を検討する価値があります。
4. 段階的なアプローチ
Fidelityは、リスクの低いユースケース(メモ要約、記録検索など)から始め、人間によるレビューを徹底することを推奨しています。
まとめ
AI技術は資産運用業界を根本から変革しつつあります。生成AIとエージェント型AIの導入により、業務効率が大幅に向上し、より高度な投資戦略の立案が可能になっています。同時に、巨額のインフラ投資が行われ、新たな投資機会も生まれています。
しかし、適切なガバナンス体制の構築、人材育成、規制への対応など、課題も少なくありません。AI時代の資産運用で成功するには、これらの変化を理解し、戦略的に対応していくことが不可欠です。
参考文献・引用元
- Deloitte (2025年12月). “2026 investment management outlook”. https://www.deloitte.com/us/en/insights/industry/financial-services/financial-services-industry-outlooks/investment-management-industry-outlook.html
- Deloitte (2025年11月). “Deloitte 2026 Technology, Media & Telecommunications Predictions: Narrowing the gap between the promise of AI and its reality”. https://www.deloitte.com/global/en/about/press-room/2026-tmt-predictions.html
- Deloitte (2025年12月). “The State of AI in the Enterprise – 2026 AI report”. https://www.deloitte.com/us/en/what-we-do/capabilities/applied-artificial-intelligence/content/state-of-generative-ai-in-enterprise.html
- Fidelity Institutional. “Wealth management trends for 2026: Six questions driven by a wave of change”. https://institutional.fidelity.com/advisors/insights/topics/running-your-business/wealth-management-trends-for-2026
- Fidelity (2025年12月). “4 money trends to watch in 2026”. https://www.fidelity.com/learning-center/personal-finance/2026-money-trends
- EY (2025年9月). “GenAI in Wealth & Asset Management Survey 2025”. https://www.ey.com/en_us/insights/wealth-asset-management/gen-ai-in-wealth-asset-management-survey
- Goldman Sachs (2025年12月). “Why AI Companies May Invest More than $500 Billion in 2026”. https://www.goldmansachs.com/insights/articles/why-ai-companies-may-invest-more-than-500-billion-in-2026
- Goldman Sachs Asset Management. “Investment Backdrop Heading into 2026”. https://am.gs.com/en-us/advisors/insights/article/investment-outlook/investment-backdrop-2026
- Morgan Stanley (2026年1月). “Investment Outlook 2026: Key Themes Shaping Global Markets”. https://www.morganstanley.com/insights/articles/investment-outlook-shaping-markets-2026
- Morgan Stanley. “Thematic Investing: AI Boom Drives Investment Megatrends”. https://www.morganstanley.com/insights/articles/thematic-investing-ai-drives-megatrends-2026
- Morgan Stanley. “Investment Outlook 2026: U.S. Stock Market to Guide Growth”. https://www.morganstanley.com/insights/articles/stock-market-investment-outlook-2026
- CreditSights (2025年11月). “Technology: Hyperscaler Capex 2026 Estimates”. https://know.creditsights.com/insights/technology-hyperscaler-capex-2026-estimates/
- MSCI. “Wealth Trends 2026”. https://www.msci.com/research-and-insights/research-reports/2026-wealth-trends
※本記事は2026年2月時点の情報に基づいて作成されています。投資判断は各自の責任において行ってください。

